Q1デザイン
コンペティション2024
公開審査会
Text: 那須ミノル
real local山形ライター。
https://www.reallocal.jp/yamagata

Q1デザインコンペティション2024公開審査会 レポート
2025年1月25日、やまがたクリエイティブシティセンターQ1にて「Q1デザインコンペティション2024」の公開審査会が開催された。
Q1デザインコンペティション2024について
「Q1デザインコンペティション2024」は、山形市とQ1とがはじめて主催する、家具のデザインコンペ。創造都市やまがたのクリエイティブ拠点であるQ1から、新しいアイデア、新しい商品、そして新しい産業を生み出していこう、という運動の一環である。「創造都市やまがた」とは、クリエイティブのちからで経済をドライブしていくものなのである。
テーマは「街に置くベンチ」。家具としてもっともシンプルなもののひとつである「ベンチ」だが、しかし「街に置く」となれば、考えなければならないことはさまざまある。また、街に置かれることによって、人びとの新しい行為を誘発したり、街なかの風景を変えたり、という機能を発揮するという意味では、ベンチとはまちづくりの起点となるもの、とも見立てることができる。そのあたりが非常に奥深く、そして面白いところ……といったような話題については、2024年9月1日にQ1にて開催されていた「第15回クリエイティブ会議」でこのコンペの審査員となる方たちからすでに提示されていた。同会議はこのコンペのためのオリエンテーション的役割を担っていた。※
※参照
Q1第15回クリエイティブ会議「小さな家具が街を変える」 レポート:
https://ccymgt.jp/reports/40
応募されたアイデアの数は、なんと100件をゆうに超えるものであった、という。しかも山形だけでなく、全国各地から数多くの応募があったという。その1次審査は、12月上旬に行われた。

今回の公開審査は、その1次審査を通過した5点について、応募者みずから登壇してプレゼンテーションする、というものである。また、このコンペの協力会社である家具制作会社Y.D.Kによってこの日のためにモックアップが製作されており、プレゼンの場に運び込まれた。プレゼンテーションも質疑応答も実際にそのモックアップを見ながら、触れながら、行われることとなった。
審査員は、芦沢啓司さん(建築家)、鈴野浩一さん(建築家)、結城美根子さん(家具職人)、中山ダイスケさん(アートディレクター)、馬場正尊さん(建築家/株式会社Q1代表)が務めた。
コンペの主催は山形市、株式会社Q1。協賛は愛和建設株式会社。
プレゼンテーションの模様について
最終審査に残ったのは、5作品である。ひとりのプレゼンテーションの持ち時間は5分、質疑応答は10分である。会場であるQ1の3階ラウンジには、審査員のほか、20人程度の見学者も集まった。
プレゼンテーションに先立って、審査員から会場に向けて語られたコメントのひとつは「実際に、具体的に、商品化されていくようなプロダクトを選びたい」ということだった。その意味では、ただデザインがかっこいいだけでなく、パブリックスペースに配置するベンチとして機能するか、商品として成立するか、コストや流通的側面から見て実現性はどうか、ということも審査の基準として含まれてくる、ということだった。
プレゼンテーションがはじまると、プレゼンターは自身のアイデアのコンセプト、デザインのポイント、街のなかでの使われかたのイメージなどを説明していった。質疑応答では、各審査員から様々な質問が投げられた。「実際にこのモックアップで座ってみると、スケール的にどうなのか」「どういった材質、どういった塗装を想定しているのか」「このカタチの必然性はあるのか」「野外に置かれたときに、盗まれたり、雨に濡れたりをどう考えるか」「ベンチとしての強度はどうか」「商品化にあたり多少の修正が必要となる場合、どのあたりが譲れないポイントか」等々。厳しい指摘もあった反面、モックアップを見ながら、「もっとこうなると面白い」など、審査員とプレゼンターがともにベンチのアイデアをブレストしあうような、ブラッシュアップしあうような、そんな和やかな雰囲気にもなり、会場の脳みそを大いに刺激する、実にクリエイティブな時間となっていた。

最終審査の結果について
プレゼンテーション後、審査員による最終審査が行われ、審査結果が発表された。結果は次のとおりである。
【最優秀賞】小泉裕聖さん(東京都、建築家)
【優秀賞】岩佐真吾さん・田中敦さん(東京都・プロダクトデザイナー)
【Q1賞】追沼翼さん(山形市・デザイナー)、清野駿之介さん(山形市・大学院生)、前田基行さん(神戸市・デザイナー)
講評について
審査と発表を終え、審査員から寄せられたコメントには次のようなものがあった。
・100を越えるアイデアが集まった1次審査がまずは大変だったが、熱気が伝わってきた。ベンチっぽいベンチのデザインがたくさん集まるなかで、「街の隙間にどうはめ込むか」といった視点から、審査が進んだ。特に最優秀賞と優秀賞に選ばれた作品には、商品化の道がひらけていくが、実際にこれからどうやってつくっていけるのか、トライしていきたい。
・最優秀に選ばれた作品は、どこに置くのか想像ができたのが良かった。
・街に置く、とはいえ、家具というのはとても小さい。その家具が、いったい、都市的なスケールにどう関わるのか。最優秀賞はそれをつなぐようなものになっていたと思う。このベンチが置かれることで街がどう変わるか、楽しみだ。
・CGだけではなく、Y.D.Kの協力によりモックアップがつくられていたことで、実際に座ったり触れたりして議論できたのが良かった。今回最優秀に選ばれなかった人も、熱意があればアイデアの実現は可能なはず。ぜひアイデアのブラッシュアップを続けてほしい。
・「街に置くベンチ」というテーマでなければ出会えなかったアイデアに出会えた。その意味ではいいテーマ設定だった。街のクオリティは、街にあるモノでできている。街のクオリティを高めるようなベンチが生まれることを期待したい。
・最優秀賞のベンチはドキュメンテーションが良かった。様々な使われ方のシーンが表現されていたのも面白かった。
・最優秀作品も優秀作品も、いずれも美しく、プロポーションも良かった。街にある美しいものは、後世までみんなが残そうとする。このコンペでも美しい案を選べたのは、審査員として誇りに思えた。等々。
そして最後に、株式会社Q1代表の馬場正尊さんから次のような総評があった。
最優秀賞となったベンチは、Q1として、ぜひ全力で商品化させていきたい。受賞者の方には、Y.D.Kとともにパートナーとなっていただいて、一緒に売れるプロダクトをつくっていきたい。このコンペは、ベンチだけでなく、都市についても考える機会になったと思う。ひとまずコンペはここで終わるが、商品化や事業化についてはこれがスタートである。これをやりたいために、このQ1がある。このプロダクトの種がこれからどういうふうになっていくか、ブロードキャストしていきたい。
終わりに
山形市は、中心市街地について「歩くほど幸せになるまち」というビジョンを掲げている。デザイン性の高いベンチを街に創出させることは、そのビジョンに沿うものとなるはずだ。街なかにいいベンチがあれば、街を歩く市民の安らぎや憩いや新しいコミュニケーションを誘発することだろう。
このコンペがきっかけとなって、やがて遠くない未来に、Q1から新しいパブリック・ベンチが誕生する。それは、この山形市の街のなかに置かれて、この街の日常の風景をより豊かなものにしてくれることになるだろう。そのとき、私たちの目に映るのは、いったいどんな姿をしたベンチなのだろうか?
Text: 那須ミノル
real local山形ライター。
https://www.reallocal.jp/yamagata