二拠点思考と
これからの仕事

第17回クリエイティブ会議「二拠点思考とこれからの仕事」レポート
2025年8月31日、やまがたクリエイティブシティセンターQ1(以下、Q1)にて「第17回クリエイティブ会議『二拠点思考とこれからの仕事』」が開催されました。これは、Q1開館3周年を記念した3日間のイベント「グランマルシェ2025」のプログラムのひとつとしてひらかれたトークショー。Q1イベントスペースとオンラインとのハイブリッドで開催されました。

これまで16回にわたってQ1で積み重ねられてきたこの「クリエイティブ会議」とは、「クリエイティブと産業を暮らしで結び、持続可能な社会づくりに繋げていく」というQ1のコンセプトを現実のものとしていくための公開型企画会議。先進的な活躍をされているクリエイターやアーティスト、経営者といったゲストをお招きして、Q1のディレクター陣がディスカッションしていきます。
第17回となる今回のゲスト・スピーカーは、未来をつくるSDGsマガジン『ソトコト』編集長の指出一正さん。雑誌やメディアの編集者としてのお仕事を長くされてきただけでなく、地域創生に関わるさまざまな活動を全国各地でされており、さらには「一般社団法人日本関係人口協会」という新しい組織づくりと運動をスタートさせているなど、幅広いフィールドでご活躍されています。また、近年は東京と神戸での二拠点生活をされ、そうした日々の活動や思考を記録された新著『オン・ザ・ロード 二拠点思考』という本を2024年に出版されています(さらにその後、2025年12月には『オン・ザ・ロード2 スーパーウェルビーイング』も出版。そのなかで、このクリエイティブ会議のことも書いてくださっています)。
モデレーターを務めた馬場正尊・株式会社Q1代表からは以下のようなコメントがありました。グランマルシェ2025のテーマを「仕事 WorkからPlayへ」と設定し、次の時代の仕事のありかたを考えるきっかけにしたい、と思ったとき、縦横無尽にさまざまな活躍をされている指出さんはいったい新しい時代の「仕事」をどんなふうに考えているのか、ぜひ聞いてみたいと思った、と。
さて、クリエイティブ会議の前半は、指出さんによるお話。日本各地で関わってきたローカルのこと、関係人口のこと、本づくりのこと、そして二拠点思考のことなどについて、スライドを見ながら語られました。後半は、指出さんと馬場Q1代表によるクロストークそして質疑応答、という構成で進められました。

以下、聴衆のひとりとしてこのクリエイティブ会議のなかでとくに興味深く感じた2点について記します。
縦走し、寄り道し、越境してゆく
という仕事の姿勢
雑誌編集のお仕事を30数年にわたって続けてこられたという指出さんですが、30代前半の頃に、じぶんが大好きでやってきたアウトドアと釣りの雑誌を離れて、サステナビリティや環境をテーマとした『ソトコト』に転職をした、というお話をされました。それは、もっと新しい環境で新しい人たちと仕事をしていかないと、その世界でしか仕事ができない編集者で終わってしまうという危機感を抱いたからだと語り、そのときには退路を絶ってまったくゼロから新しい人たちと新しい関係をつくりながら仕事していこうと決意したと言います。指出さんはそうした自身の仕事のスタイルを、「縦走型」であると言い、それは寄り道や越境をあえてするような姿勢であり、そういうやりかたのほうがじぶんを支えてくれるもうひとりのじぶんのようなものが生まれたり、周りのひとが喜んでくれたりするようになる、とおっしゃっていました。
それは、いわば山から海へと住処を変えてやがて戻ってくるサクラマスのようなもの。サクラマスは、かつて川に棲んでいたヤマメのうちでも負け組だったものが海へと出て育った存在だと言われています。それが海という別の環境のなかで大きく育ち、やがて川へと戻っていく。だから、ある瞬間だけを切り取って勝ち負けを判断することはできない——。人の仕事も同じで、もっと長い時間軸のなかで見ていくべきものだ、というお話でした。
じぶんではなく「まわりの期待」が
あたらしいじぶんをつくってくれる
また、かつて坂本龍一さんやリリー・フランキーさんといっしょに仕事しているなかで教わったこととして、「依頼されたことは断っちゃいけない」という言葉をもらったというエピソードを紹介されていました。その真意は、「じぶんができるかどうかよりも、まわりの人は『あなたにやってほしい』と思っているのだから、その期待に応えるように動けばいいだけ、ということ」なのだと言います。そうやって、いろんなところからの依頼を断らずに引き受けていると、それが新しい仕事を生んだり、誰かにとても喜ばれたりする瞬間につながっていくのだ、と。実際、その教えに従ってさまざまな仕事を受けるようにしてきたそうです。
馬場さんもその姿勢に共感するものがあるそうで、「他者がじぶんをどこかに連れて行ってくれている、という感覚を覚える」と応答されていました。依頼された当初は「ええーっ?」って思ってしまうような仕事が、そのあとに意外な展開を見せて、意外なものを生んだり、気づかなかった可能性を発動させてくれたりすることのほうが多い、と。

あたらしい自分や、あたらしい仕事は、じぶんだけでつくるものではない。むしろ、まわりの環境や周囲の期待のなかから生まれてくるもの、ということなのかもしれません。

クリエイティブ会議とは
Q1が目指す「クリエイティブと産業を暮らしで結び、 それらを山形の持続可能な社会へ還元する」ための具体的な方法論や事業の可能性をテーマに、 先進的な活躍をされているクリエイター/アーティスト等のゲストとQ1プロデューサー/ディレクター陣がディスカッションする公開型の企画会議です。