
第18回 クリエイティブ会議 × TUAD TALK「BRUTUS的編集術」レポート
2025年11月26日、東北芸術工科大学において「第18回クリエイティブ会議 × TUAD TALK『BRUTUS的編集術』」が開催されました。これは、山形市とやまがたクリエイティブシティセンターQ1(以下Q1)による「クリエイティブ会議」と、東北芸術工科大学による「TUAD TALK」とのコラボレーション企画。トークゲストとして登場したのは雑誌『BRUTUS』編集長の田島朗さん。ファシリテーターは東北芸術工科大学学長でQ1ディレクターでもある中山ダイスケさんです。学生や一般市民など、会場には100名の参加者が集まるとともに、会議の模様はオンライン配信されました。

「クリエイティブ会議」とは、「クリエイティブと産業を暮らしで結び、持続可能な社会づくりに繋げていく」というQ1のコンセプトを現実のものとしていくための公開型企画会議。先進的な活躍をされているクリエイターやアーティスト、経営者といったゲストをお招きして、Q1のディレクター陣がディスカッションするものです。
他方、「TUAD TALK」とは、東北芸術工科大学の学内外のゲストが在学生に向け、さまざまな話題やメッセージを伝えてゆくトークイベントです。
ゲストの田島朗さんは、雑誌『BRUTUS』の第11代編集長。現在、マガジンハウス執行役員も務められています。創刊1980年の雑誌『BRUTUS』は、45年にもわたって、月2回の刊行、判型、ロゴの位置など雑誌の基本を変えることなく独特の存在感を放ちつづけてきたという、すでにレジェンダリーなライフスタイル・マガジン。数多くの雑誌がロゴやコンセプトや刊行ペースといったさまざまをリニューアルさせることで命を生きながらえさせているのとはまるでちがうスタイルを貫き通しているという、世界的にも稀な存在です。2024年には創刊1000号という記念のときを迎えたこの雑誌の、独特の存在感の秘密とはいったいなんなのか。そして雑誌というメディアのありかたを改めて考えさせられる時間となりました。

前半は、田島さんによるトーク。『BRUTUS』とはなにか、そのコアバリューとはなにか、そしていまどのような展開を見せているのか、といったお話が語られました。後半は、中山学長とのクロストーク、そしてその後は会場からの質疑応答という構成となりました。
ここでは、いち聴衆として参加したこのトークイベントのなかでも、とくに田島さんによるトークにフォーカスし、そのなかで個人的に興味深く感じた点について記します。
「特集主義」を貫きつつ、
新しい視点(=NEW PERSPECTIVE)で面白がる
創刊から半世紀近くという長きにわたって『BRUTUS』が貫いてきた、「特集主義」。毎号「なにか」を特集して1冊をつくるというそのテーマは、じつにさまざまな分野に及びます。このポップカルチャー総合誌の基本的編集方針は、日本のオトナたちが心ゆたかにカルチャーを楽しむライフスタイルを、特定ジャンルにこだわることなくランダムに提案してゆく、というもの。だからこそ、旅、街、人、フード、音楽、映画、アニメ・漫画、建築、アート、そしてそこにすら分類されないジャンルにまで及ぶなかでテーマを立て、そのなかでたとえばワインやジャズ、コーヒーなど、日本において時代の中で生まれたさまざまなブームの牽引役を果たしてもきました。

そうした特集のなかからは、「居住空間学」や「ひとりブルータス」などの名物企画が育まれてもきました。近年では「怖いもの見たさ」「珍奇鉱物」など、これまでにはない斬新なテーマ領域も切りひらいています。ここで重要なのは、テーマや話題そのものの新しさではないことだと、田島さんは指摘します。たとえテーマはそれほど新しくなくとも、大事なのは「視点が新しいこと」なのだ、と。これを「NEW PERSPECTIVE」という言葉で表現されました。そして、その「新しい面白がりかた」の提案でもっとも重要なのが雑誌の顔ともいうべき表紙であるとのこと。つまり、その新しい視点を瞬間的に読者に伝えられるようなワンセンテンスの言葉とひとつのビジュアルにまで研ぎ澄ませることができるかどうか。そこに「BRUTUSらしさ」が宿るか否かの勝負どころがある、ということらしいのです。
「編集とは、集めるパワーと、編むセンス」。そのふたつが成り立ってこそのものなのだ、と言います。新しい視点があるからこそ、新たに編むことができる、ということなのでしょう。新しい情報、新しい価値、新しい意見というよりは、新しいものの見方、新しい面白がりかたで「こういうように見ることができたら、もっと楽しいかもよ」というメッセージを鋭く突き刺す。それが『BRUTUS』の秘密のひとつなのかもしれません。
雑誌を編むちからが
メディアの枠をこえてゆく
新しい視点で雑誌を編集することで養われた「編むセンス」があれば、雑誌以外にも可能性が広がる、という話題へ。「メディア」とはそもそも「媒介」という意味であり、「発信者と受信者をつなぐもの」です。そのように捉え直したとき、編集の仕事は「雑誌という出版物をつくる」ことから「さまざまなメディアでエディトリアルなコンテンツをつくる」へと大きくシフトします。実際、いまではすでに『BRUTUS』は雑誌だけに限らず、消費者に喜ばれるコンテンツをさまざまなメディアを通して届ける「エディトリアル・サービスの先駆者」という存在となっている、という紹介がありました。
「BRUTUS ORIGINAL MOVIE」という動画、「BHIVE」というクリエイターズ・コミュニティ、PBというクリエイティブ・ブティック、取材した記事が検索できるマップ連動型アプリメディア「mapzine」まで。いずれもコアとなる編集のちからを使いながら、それぞれのメディアや場にあった編集によってそれぞれにコミュニケーションしたり、課題解決したりしていくものとなっています。動画でも、単に雑誌で取材した記事を映像で撮り直して流すということではなく、雑誌で掲げたテーマを動画というメディアならどう企画・編集するかを編集者が動画チームと連動しながら考え、制作に携わっていく、というような方法で、動画だから表現できることをブルータスなりに考えていると言います。
ポップカルチャーの総合メディアとして「新しい視点で面白がる」ことを、雑誌だけでなく、さまざまなメディアにひらいていく。出版からデジタルへ、クリエイティブ・ブティックへ、コミュニティへ、アプリへ、とブランドをひらく。そのことでコンテンツとビジネスがひろがる。いまやさまざまなフィールドで、『BRUTUS』らしい編集、『BRUTUS』らしい表現が展開されていっているそうです。そのように考えたとき、『BRUTUS』とはもはや雑誌名にとどまるものでなく、いくつものメディアを横断するブランドの名なのでしょう。
限られた編集者たちが、
さまざまにチームを組む編成スタイル
田島さんは、しかし、そのようにさまざまなメディアで展開するからこそ、かえってまた雑誌というシンボリックなブランドがまた生きてくる、というようなことも指摘されました。つまり、雑誌はリソースの源泉であり、ユーザーをグリップするための偉大なる装置である、と。雑誌とは、リアルなプロダクトでありオブジェクト。そしてさらにいまでは新規参入がむずかしいメディア・ビジネス。だからこそ、その質感や存在感はあらためて重要である、ということのようです。
こうした『BRUTUS』のありかたを支える編集部には、14名ほどの編集者が在籍しているとのこと。企画立案から発売までを月2回こなす、その裏側には、決してマンネリをうまない特殊なチーム編成があるとのことでした。デジタルチームも交えつつ、それぞれがリーダーになりながら、プロジェクトごとにちがう役職のひとやメンバーとチームを組んで仕事を進めていく。毎回組むメンバーが変わる。そうしたことも、新しい視点を持ちやすいように、という狙いらしいのです。そのとき、編集長の仕事とは、すべてのプロジェクトに対して、誰がどのチームに入っていてどんな動きをしているか、誰かの労働荷重が大きすぎたりしないか、常に最大のパフォーマンスを発揮するためのチーム編成が機能するように、という人事のマネジメントでもあるようでした。
『BRUTUS』編集長とは、雑誌『BRUTUS』の編集長であることにとどまらず、あらゆるメディアを駆使しながら『BRUTUS』というブランド全体を編集しマネジメントすることへ。それを実践しながら、やはり根幹となる雑誌『BRUTUS』のブランド価値を守り、育て、さらに輝かせていこうとしているという、非常に野心的な試みの一端を垣間見たような気がします。
『BRUTUS』は唯一無二の雑誌でありながら、雑誌だけにとどまらないメディア展開をしている。そして、そのことがかえってまた雑誌としての求心力を高めてもいる。そんな存在なのかもしれません。

クリエイティブ会議とは
Q1が目指す「クリエイティブと産業を暮らしで結び、 それらを山形の持続可能な社会へ還元する」ための具体的な方法論や事業の可能性をテーマに、 先進的な活躍をされているクリエイター/アーティスト等のゲストとQ1プロデューサー/ディレクター陣がディスカッションする公開型の企画会議です。
Q1チャンネルとは
Q1チャンネルは、 株式会社Q1が運営するYouTubeチャンネルです。 ゲストを招いたトークセッションや、 様々なQ1のプロジェクトなど、 「山形×産業」の可能性を探るコンテンツを発信していきます。