Creative City Yamagata

いのちの庭

2020.10.29.Thu
山形市の中心市街地に位置する第一小学校旧校舎山形県下初の鉄筋コンクリート造校舎で国登録有形文化財となっている映像音楽クラフトメディアアートなど創作活動の場学童保育カフェや食文化市民活動のスペースなど多くの要素が混ざり合う地域のクリエイティブ拠点を目指し2022年以降のオープンに向けて進行中

第5回 クリエイティブ会議「いのちの庭」レポート

クリエイティブ会議とは第一小学校旧校舎の「Q1プロジェクト」で展開していく事業の可能性についてクリエーターアーティスト企業と共に考えていくレクチャーシリーズQ1プロジェクトが目指すのはクリエイティブと産業を暮らしで結びそれを山形の持続可能な社会へ還元することクリエイティブ会議ではその具体的な方法論を公開型で話し合っていきます

第5回クリエイティブ会議のテーマは「いのちの庭」と題し第一小学校旧校舎(以降:旧一小)の中庭の可能性についてディスカッションが繰り広げられました今回は山形ビエンナーレ2020と連動しての開催ですゲストは“土の建築家”として知られる遠野未来さんこれまで住宅入浴施設ビオトープ子どもの遊び場などをつくるほか国内外で展示やワークショップを行い土の可能性を追求するプロジェクトを重ねていますさらに医学博士であり山形ビエンナーレ2020の芸術監督をつとめる稲葉俊郎さんが加わりモデレーターの東北芸術工科大学/クリエイティブディレクターの岩井天志教授と建築家の馬場正尊教授の4名でディスカッションが行われました

建築家の遠野未来さん20年以上前ご自宅の制作をきっかけに土の建築の魅力に出会ったという遠野さん「土が少し入るだけで空気がしっとりして心地よく空間の雰囲気が柔らかくなる」と話す
現役の山形市第一小学校と旧校舎の間に位置する中庭

今回の題材である旧一小の中庭は少し特殊な構造をしています現役の山形市第一小学校と旧校舎が左右対称にありその真ん中に中庭がある状態いわば新校舎と旧校舎が共有する庭であり四方を建物に囲まれた空間となっています

この場所を“土の空間”を通して食・農・子どもたち・地域の人々が出会いつながる場をつくることができないだろうか?

今回のトークでは「土」と「いのち」をキーワードに遠野さんが描いた中庭のイメージ図が共有されました

遠野未来さんによる「いのちの庭」イメージ図

遠野さんが描いたのはシンボリックな立体物『生命のつながりと循環』をテーマに例えば“人間と動物”“静と動”“子どもと社会”など対照的なものが循環しいのちを表すメビウスの輪がイメージされています

2つの円形が並び右側は「食」をテーマにコンポストや畑があり左側にはイベントや映画が見られる広場になる中央には東屋がありみんなが集えるテーブルを置いて会話したり畑で取れた野菜を食べたりする子どもだけでなく市民が集えるようテントを置いてマーケットをしたりイベントができる場となります

遠野未来さんによる「いのちの庭」平面と断面のイメージ図

中庭にある土を生かして起伏をつくることで立体的な原っぱを子どもたちが登ったり降りたり走り回ったりできますかつてはお堀があったという土地の記憶とリンクさせながら水の循環をつくったり植栽をしたりいろんな生き物が共存させられたらそして秘密基地のように子どもたちが篭れる土のオブジェを点在させていけたらと遠野さんは話します

これらの遠野さんのスケッチをもとに旧一小の中庭の可能性についてこの場所が目指す方向性について議論が展開されていきました以下に印象的な対話の断片を振り返っていきます

山形ビエンナーレ2020とのコラボレーションで「いのちの学校」のスタジオから配信

遠野 旧一小の中庭の未来について叩き台として絵を描いてきましたはじめから完成形を目指すのではなく少しづつ作っていくのがよいと思っています山形ビエンナーレ2020でもこの中庭を使った企画の構想があったのですよね

岩井 今年はコロナでオンライン化しましたが旧一小がビエンナーレのメイン会場のひとつとなる予定でした開催期間中あえて完成形を決めずに中庭の土を使って子どもたちとアーティストが一緒に作品を作りあげていくいのちの象徴のようなオブジェをつくろうと稲葉先生と考えていたんですよ

遠野 とても興味深いですねそういった土のオブジェも増殖して組み込まれていく空間になるといいなと思います

稲葉 これからは対話の時代になると思っていますいまは避難的にオンラインが対話の場となっていますが今後は「なぜリアルな場で人が集うのか?」という問いが生まれてきますその答えが対話することだと思うんですなにか問題があってもこの場所に集まり土や自然の力を借りながらみんなで対話をして解決していくここがそういう場になればいいなと思います

オブジェをつくることも各々が提供できるものを出し合ってみんなの意見が反映されて作られていくそんな対話のプロセスを具現化するものとしてイメージしていました世代間の分断やいろんな壁が溶ける場として庭が機能するといいですよね遠野さんの描いたメビウスの輪もこうした対話の場を象徴しているように感じました

岩井 この庭は新旧の小学校の中間地点にあるので子どもも含めて対話が行われて未来につながるコミュニティができていく気がします安心してみんなが集うことができてここに来ると気持ちが良くなる場所にしたいですね

馬場 この場所では身体で対話できそうだと思いましたここは地方都市とはいえ泥まみれになって土に触れて遊べる場が意外とありませんこの空間は四方が建物に囲まれていてあの庭に立つとすごく安心感があるんですよねオブジェを作りかけで放置してもあの空間だったら許される気がします

遠野 作りかけで雨風にさらされて溶けてそこからまた作り直して形が変わっていくまさに“生きている”という感覚ですよね

馬場正尊さん(左)と岩井天志さん(右)

馬場 未来さんは過去に仮設の建築物をいくつか作っていて現存しないものもありますよねあの感覚がすごくいいなと思っていて建築はつい完成が目的となりますが作り続けていずれ消えていくものがあってもいい人間が生きて死んでいくように建物も朽ちることを見越したデザインがされてもいい

岩井 呼吸し続ける建築ですね未来さんのスケッチもまさにそういったメッセージが込められているように感じます

遠野 大人やプロだけではなく子どもたちが主体的に関わって作っていけるその仕組みから作っていけるといいなと思っています

稲葉 場をつくるときは初期条件が大事だと思います僕がいま住んでいる軽井沢では自然を残すために建蔽率(敷地面積に対する建築面積の割合のこと)が決まっていてその初期条件のもとで土地を買ったり家が建てられたりする結果的に人と人家と家との距離が適度に保たれていくわけです

この中庭でも「安全」や「いのちを守る」などの初期条件を決めてあとはできるだけ自由なプロセスに任せていくそうすることで誰もが予想しなかったようなものが生まれなおかつ大切なことはしっかり守られている状況がつくれるのではないかと思います

馬場 その初期条件を第一小学校の先生たちと決めていけるといいですね

岩井 その初期条件のもとできるだけ大人が決めたルールに縛らないよう子ども達が主役になれる場にしていきたいですね

稲葉 みんなが主体的に「私もこの庭を育てていきたい」と思えるような初期条件をすることが大切になってくると思います

山形ビエンナーレ2020芸術監督の稲葉俊郎さん

馬場 稲葉先生には第3回クリエイティブ会議で山形に来ていただき改めて本を読んだりして「全体性」という言葉をもらいましたそれにすごく救われたんですよね

遠野 自分もまったく同じです全体性というワードにマーカーを引きながら本を読みました

馬場 ぼくの場合は建築の専門性で見たとき雑誌を作ったり広告代理店で働いたり東京R不動産という不動産事業を始めたりと寄り道をたくさんしていて「なにをやっているかわからない」と言われ続けていたのですが全体性という言葉をもらってこれでいいんだと思えたんです

稲葉 人間は完璧さを求めようとしますが完璧さよりも全体性のほうが大切だと思っています全体性とは母性的な世界かもしれません完璧さを追求していくと限られた条件でしか成立しない場合が多いですが全体性が保たれる場はどこでも作ることができると信じています

僕もなぜ医者をしながら能楽など伝統文化を学んだりこうして芸術祭に携わったりするかというと医療的な場を追求したとき病院の中だけでは完結しないことがわかってきたからですアートや街など全部ひっくるめて取り組んでいかないと医療や生命に対して敬意を持って立ち向かえないと思ったんです

「いのちの庭」がオープンプロジェクトとして進んでいき完璧ではないかもしれないけど全体性が保たれている場として機能すればまったく予想をしていなかった波紋を呼ぶことができるコロナ以降また人がリアルな場に集まる意義を考えると2020年の今こうやって準備していることにすごく意義があると思っています

岩井 ここからが再スタートですねおそらく次回のビエンナーレでは旧一小で新しいことが発信できるはずです未来さんと稲葉先生にも引き続きアイディアをいただきながらこの企画を進めていきたいと思います今日はありがとうございました

クリエイティブ会議とは
Q1が目指す「クリエイティブと産業を暮らしで結び それらを山形の持続可能な社会へ還元する」ための具体的な方法論や事業の可能性をテーマに 先進的な活躍をされているクリエイター/アーティスト等のゲストとQ1プロデューサー/ディレクター陣がディスカッションする公開型の企画会議です ※クリエイティブ会議は 山形市「令和4年度クリエイティブシティプロデュース業務」の一環として実施しています 

Q1チャンネルとは
Q1チャンネルは 株式会社Q1が運営するYouTubeチャンネルです ゲストを招いたトークセッションや 様々なQ1のプロジェクトなど 「山形×産業」の可能性を探るコンテンツを発信していきます