
夏本番。強い日差しのせいか、木々も山の陰影もいっそう濃く感じられます。街ではほとんどアスファルトの上を歩いていますが、たまたま出会う木陰の涼しさに改めて驚かされます。酷暑日はエアコンが利いた室内にいるのが無難とはいえ、どうも人工的な冷たい風は肌に痛く、自然の涼しさが恋しくなります。そうなると、標高が高い所へ行くしかありません。

この季節、市街地から気軽に足を延ばせる蔵王は格好の避暑地です。なかでもドッコ沼(独鈷沼)はお気に入りの1つで、水辺で涼み、周辺を散策すると身も心も楽になります。そして実は、その道すがらにも見逃せない風景があります。冬はスキーコースになるゲレンデが、夏には高山植物のお花畑に姿を変えています。もちろんコースを維持するために草刈りは欠かせませんが、花やそこに集まる昆虫、さらにそれを楽しみに訪れる人々にも配慮しながら管理されているようです。

8月になると、ヨツバヒヨドリ(四葉鵯)を中心に、シシウド(猪独活)やヤグルマソウ(矢車草)が小さな群落(パッチ)をつくり、ゲレンデをモザイクに彩ります。


その花々を目当てに飛来する代表的な蝶が、アサギマダラ(浅葱斑)です。淡い藍色を帯びた翅に赤茶色の差し色が優美で、花々に引けを取りません。この蝶は、海を越えるほど長旅をすることで知られ、翅に記されたマーキング情報を手掛かりに、全国の研究者や愛好家が各地で記録し、その経路を調査しています。生物クラブの少年少女なのか、白い虫取り網を持った若者が夏の山を歩く風景は、遠い記憶が呼び起されるような、どこかホッとするような気持になります。
アサギマダラが好んで訪れる花は、フジバカマ(藤袴)やヒヨドリバナ(鵯花)などの仲間が代表的で、淡い紫色や白色の細かく泡立ったような花をつけます。ヨツバヒヨドリも同じ特徴ですが、緑が濃い夏の山では比較的に見つけやすい姿をしています。見つけたら周囲を見渡してみてください。旅する蝶との一期一会があるかもしれません。

Text: 渡部桂
Katsura Watanabe
東北芸術工科大学
建築・環境デザイン学科教授